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のーと 008
「バックロードホーン」
更新.2014.01.20
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「バックロードホーン」は私が最も好きなエンクロージュアの形式です。低域をホーンから出すことにより得られる中低域の質感は他では代えがたく、軽量なコーン紙をもつユニットと組み合わせることで、まさに「活き活き」とした音が飛び出してくるのです。

バスレフ型に代表される他の方式のスピーカーは、確かに歪率は少なく、低域レンジを拡張するという意味合いでも優れています。
しかし、いざ音を聴いてみると、ただの優等生。そうしたスピーカーから鮮烈な音を出すにはアンプを含む駆動系を強大なものにしなければなりません。(まあ、それがハイエンドオーディオの世界なのですが)

バックロードホーンは、周波数特性も付帯音も酷く、褒められた特性ではありません。他のどの方式にも劣るといっても過言ではないでしょう。

しかし、聴いてみると凄いのです。音は鮮明に立ち上がり、演奏者の姿が見えるかのごとく活き活きとした音なのです。
演奏の空気感、歌手の表情が見える…という点では、数倍、いや十数倍もの値段の高級オーディオと十分に張り合うことができるでしょう。

「オーディオに何を求めるか?」というのはオーディオマニアの永遠の命題だと思いますが、「求める音=ライヴな(生きた)音」であれば、バックロードホーン型というのは最高の選択肢の一つだといえます。


しかし、バックロードホーン型の知名度・普及率は全くと言っていいほど少ないです。バックロードホーン型は、「活き活きとした音」を得る代償に、数えきれない欠点を抱えてしまいやすいのです。

低音の量感不足、中低域のホーホーとした付帯音、高音域の荒さ、耳障りな中高音…などと、挙げればきりがないほどです。バックロードホーンが自作オーディオ界で注目されて、そろそろ半世紀が経ちますが、未だ未解決なのです。


そもそも、「自作スピーカー」×「バックロードホーン型」という図式が出来上がったのは、長岡鉄男先生の功績でもあるのです。
長岡先生は、ビンテージ時代にアンプの出力不足(数ワットしかなかった)を補うために使われていた「バックロードホーン型」という方式を、近代オーディオに持ち込んできた仕掛け人だと言えます。

市販品のOEMユニットだった「FE103」を取り出し、バックロードホーン型のエンクロージュアに入れた。そこから出た鮮烈なサウンドは、ユニットの生みの親であるフォスター電機(FOSTEX)をも動かし、次第に進化を重ねていったのです。

そして、長岡先生は「スーパースワン」「D-58ES」といったバックロードホーンの名機を生み出し、長岡先生が亡くなられた今もなお愛好家を魅了し続けています。


このように、長岡先生により注目を集めるようになったバックロードホーン型ですが、その完成度はまだまだ低いと考えています。

そもそも、未だ設計方法が確立されていないのです。長岡先生の経験則のみが受け継がれ、ある人は大成功と言い、ある人は大失敗と言う。評論家の先生であっても、手さぐりでの設計が続いている現状です。

これは有名な話ですが、バスレフなどの他方式に比べバックロードホーン型は非常に理論解析しにくい方式なのです。完全なホーンでもないし、完全な管共鳴でもありません。
おまけに、特性が悪いのに、音が良く聞こえる。特性を良くしたところで、果たして音が好ましい方向にいくかどうかも分かりません。しまいには聞き手の「好み」というところで議論が収束する。そんな状態なので、理論派のスピーカービルダーは触ろうとしない。これでは一向に進化するはずもありません

もちろん、長岡氏が亡くなってからも、バックロードホーンを改良するための数々のトライが行われてきました。それでも、「どこまで何が明らかになっていて、何をすれば良い音になるのか?」と問われて明白に応えられるスピーカービルダーは少ないのではないでしょうか。


長々と書いてしまいましたが、結論は、
「最高のスピーカー形式のバックロードホーンを、もっと高めようじゃないか!」
ということです。


大手メーカーでさえ触ろうとしない方式なので、寝ていても果報は出てきません。進歩への道は、私たちスピーカービルダーがやるのみです。
歪?付帯音?耳障り?そんなネガティブな言葉に怖気づいて逃げ出していては、虎児は得られません。


「見る前に飛べ」という心意気で、タブーとされた音響管型スピーカーにトライした長岡先生のごとく、22世紀に向けてバックロードホーンを進化させていこう。そんな想いです。





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