トップページ >>思考のーと 目次 >>第6回


のーと 006
「TSパラメータについて」
更新.2012.02.29

<<[のーと005]へ戻る [のーと007]へ進む>>

今回は、TSパラメータについて説明します。TSパラメータは、密閉型スピーカー設計を簡便にする為に1960年頃に発表されたもので、ユニットの特性を示すのに便利な指標だといえます。

TSパラメータについては、以下のページが参考になります。
T/Sパラメーターの解説:Bond's Lab

Qms, Qes, Qtsの求め方は、のーと002〜005で細かく説明してきたので、
役に立つ公式や、その他のパラメータを紹介しようと思います。


Mms ( = m0
これは、「等価質量」と呼ばれ、FSOTEXのカタログではm0と表記しています。
Mmsは、振動板とボイスコイルの重量だけでなく、振動板前後の空気の重さまでカウントされています。

Mms[kg]を求める方法は何種類かありまして、 計算的には後述するCms[m/N]とFs[Hz]から求めることができます。
Mms
この式は、Mmsが明記されないTangBand製ユニットに対して便利です。





Cms
これは「コンプライアンス」と呼ばれ、ユニットのサスペンションの柔らかさを示す指標です。

柔らかいサスペンションであれば、Cmsは大きくなり、
硬いサスペンションであれば、Cmsは小さくなります。

単位は[m/N]、[mm/N]もしくは[μm/N]で、大抵 2 mm/N 〜 0.1 mm/N 程度の値となります。

「振動板は動きやすいほうが良いから、Cmsは大きい方が高性能?」と思うかもしれませんが、一概にそうとは言えません。硬いサスペンションは引き締まった忠実度の高い低域を再生するのに有利とも考えられます。

このCmsを求めるには、次の公式を使います。
Cms

Fsは、共振周波数[Hz]
Mmsは、等価質量[kg]

ここで、FE103EnのCmsを求めてみます。
カタログデータより、Fs = 83 [Hz]、 Mms = 2.55 [g] = 0.00255[kg]なので、
Cms = 1 / (4×3.142 × 832 ×0.00255) = 1 / 692.8
= 0.00144[m/N] = 1.44[mm/N]

これより、FE103Enの振動板が1[N]の力で押された場合、振動板は1.44mm動くということが分かります。



Fs ( = f0
これは、「共振周波数」ですね。
のーと004で述べたように、これはインピーダンス特性のピーク周波数と同じです。

一方で、Cmsを求めた上記の式を変形すると、Cms[m/N] と Mms[kg] から Fs[Hz] を求める事ができます。
fs




Vas
これは「等価コンプライアンス空気体積」です。スピーカー箱(密閉型)において、箱内部の空気は容量に応じて弾性を持ちます。この空気の弾性と、ユニットのダンパーの弾性が等しくなる容量を意味します。単位は[L]で表されることが多いです。
なお、適正バスレフ箱容量とは違うので注意が必要です。

Vas[m2]を式で表すと、次のようになります。

Vas
空気密度ρ=1.184[kg/m3]
音速c=346[m/s]
実効振動面積 Sd は、実際に動く部分(振動板)の面積です。

式を見て分かるように、振動板面積が同じであればVasはCmsは比例の関係にあります。両者とも、振動板を保持するダンパー(など)の柔らかさを表す数値なのです。


ここで、FOSTEXのFE103EnのVasを計算してみましょう。
カタログ値で、実効振動板半径 a が 4.0[cm]となっているので、実効振動板面積Sdは…
Sd = 4.02× 3.14 =50.24[cm2] = 0.005024[m2]

先程の計算で、FE103EnのCmsは0.00144[m/N]と分かっているので、Vasは…
Vas = 1.184 × 3462 × 0.0050242 × 0.00144
= 0.005152[m3] = 5.152[L]




補足として、Vas [m3] と Sd [m2]が分かっていれば、Cms [m/N]が次式で求まります。
Vasから求めるCms

また、Vas[m3] と Sd [m2] と Fs[Hz] が分かれば、Mms[kg]を求めることが可能です。
Vasから求めるMms

Parts-Express.comのような海外通販では、VasとFsしか分からない場合も多いので、この式が役に立つはずです。





Qes
これは、のーと005などで説明してきた「電気的共振先鋭度」です。
説明してきたように、Qmsとインピーダンス特性から求めることもできますが、
Bl[TM]、Mms[kg]、RDC[Ω]、Fs[Hz]から、次の式で求まります。
Qmsの計算上の求め方



Qms
これは、のーと005などで説明してきた「機械的共振先鋭度」です。
基本的にはインピーダンス曲線からしか求められない値ですが、
QtsとQesが分かっていれば、そこからRmax[Ω]を算出し、
それを下記の公式に当てはめることで、Qmsを求めることができます。
Qtsから求めるQms





トップページ >>思考のーと 目次 >>のーと004

inserted by FC2 system