前回は「逆起電力」の説明をしました。今回は、アンプを含めた全体的な視点から、電気の流れを考えてみます。
さて、『「アンプからの電流」と「起電力」が反対の向きを向いている』と述べましたが、これを電気回路で書くと下図のようになります。
回路図の中にある「RDC」は「直流抵抗」のことです。
これはテスターなどで簡単に測れる値で、よく知られている「電気抵抗」です。
ちなみに、公称インピーダンス(カタログに載ってる値)が8Ωのスピーカーの場合、
直流抵抗RDCは、大抵6Ω前後の値になります。
ここで、一度「オームの法則」について復習しましょう。
オームの法則は、
で示されます。
(I:電流[A]、 V:電圧[V]、 R:電気抵抗[Ω])
例えば、
このユニットに、1[V]の直流電圧をかけると、オームの法則より…
1[V]/6[Ω] = 約0.17[A]
の電流が流れることになります。
では、再び先程の電気回路を見てみると、
回路にある抵抗は、ユニットのRDC(ここでは6[Ω]とする)だけなのですが、
電圧を決める「電池マーク」が二つありますね。
片方がアンプ(α[V])、もう片方がユニットの逆起電力(β[V])を表していて、それぞれが打ち消しあう向きになっているのがミソです。
この場合、回路には双方の差分だけの電圧(α[V]−β[V])がかかっているのと同じことになります。つまり、回路全体に流れる電流 I [A]は、次のように示す事ができますね。
回路に直流が流れる時は、逆起電力βは 0[V]なので、回路に流れる電流は…
I =( 6[V] − 0[V] )÷ 6[Ω] = 1.0[A]
となりますね。当然ながら、この電流 I=1.0[A] とアンプの電圧α=6[V]から抵抗値を逆算すると、
R = 6[V] ÷ 1[A] = 6 [Ω]
になります。
次に、交流のときを考えます。
このとき、逆起電力β=2[V]が発生するとします。アンプからの電圧α=6[V]とすると、回路に流れる電流 I は…
I =( 6[V] − 2[V] )÷ 6[Ω] = 0.66[A]
ここで求めた 電流0.66[A] と アンプの印加電圧6[V] から、抵抗を逆算すると…
R = 6[V] ÷ 0.66[A] =9.1[Ω]
という値が出てきます。
この値は直流抵抗RDC= 6[Ω]より大きな値になっているのが分かります。これが、交流抵抗と呼ばれる「インピーダンスRimp」の正体です。
このように、インピーダンスは共振により逆起電力が発生することで大きくなり、共振周波数(=逆起電力が最大になる時)で最大の値となります。つまり、よくスピーカーユニットのカタログに掲載されているインピーダンス曲線の山の位置を見れば、共振周波数が分かるということです。
「FE103Enのインピーダンス曲線」
今度は、逆起電力β=5[V]が発生するとします。
アンプからの入力電圧αは先程と同じ6[V]で計算すると、回路に流れる電流 I は…
I =( 6−5 )÷ 6 = 0.17[A]
ここで求めた電流 と 直流抵抗RDC=6[Ω]から、交流抵抗Rimpを逆算すると…
Rimp = 6 ÷ 0.17 =35.3[Ω]
という値が出てきます。
先程の計算結果と比較すると、
逆起電力β=2[V] → Rimp = 9.1[Ω]
逆起電力β=5[V] → Rimp = 35.3[Ω]
逆起電力が大きいほど、インピーダンスの最大値「Rmax」は大きくなる。
と言えますね。
では、「逆起電力の大きさは何で決まるか?」ですが、前回の話のフレミング右手の法則(発電)に基づいて考えると、
「振動板の動きが激しい(共振しやすい。つまり振動板が重く、ダンパーが柔らかい)」「磁束が大きい(磁気回路が強い)」という条件があれば逆起電力は大きくなります。
さて、これでインピーダンスの大きさ(Rmax)に関しての説明は終わりです。もちろん、インピーダンスに影響するのは共振による逆起電力だけではなく、ユニットのリアクタンスなどもあります。しかし、スピーカー箱の設計をするには「共振」の理解が大切なので、今回は共振現象や逆起電力に注目してインピーダンスの話をしました。
インピーダンス曲線の大きさはインピーダンスの最大値「Rmax」で説明できますが、「形」はどうやって評価したら良いでしょうか?
次回は「共振先鋭度 Q 」を説明します!
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